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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2016年3月 No.347

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■トピックス:シックスシグマ、リーンに関する主要専任者の能力認証と組織の適格性規格が日本の品質活動に与える影響
■私の提言:クローズド・ループ・サプライ・チェーンにおける品質マネジメント
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トピックス
シックスシグマ、リーンに関する主要専任者の能力認証と組織の適格性規格が日本の品質活動に与える影響

ISO TC69/SC8・SC7国内委員会 副査 石山 一雄

1.はじめに
 「ISO 18404:2015プロセス改善における定量的方法−シックスシグマ−シックスシグマおよびリーン実施に関する主要専任者の能力と組織の適格性(Quantitative methods in process improvement - Six Sigma - Competencies for key personnel and their organizations in relation to Six Sigma and Lean implementation)」という国際規格が昨年12月1日付で発行されました。この国際規格はISO/C 69(統計的方法の適用委員会)/SC 7(シックスシグマのための統計的手法の応用分科委員会)で開発・審議されてきました。日本は、日本の現状を考え、一貫して時期尚早と主張してきましたが、最終的に日本・米国の2か国のみの反対で可決、発行されました。

2.ISO 18404:2015の特徴
 この国際規格は「適合性規格(conformance standard)」、すなわち第3者認証を意図しており“shall”文(しなければならない)で構成されています。従来のシックスシグマにリーン(Lean)を加え、トヨタ生産方式を模したリーン&シックスシグマ(Lean & Six Sigma)に関する要員や組織への要請を規定したのが特徴です。すなわち、3段階の主要専任者の知識と能力を規定し、リーン&シックスシグマの主要専任者は、シックスシグマとリーン両方の知識と能力を求められます。また、シックスシグマを実施している企業、組織の適格性についても規定しています。以上のことは「適切な権限を有する機関」により認証され、3年毎に再評価されなければなりません。

3.英国の動向
 英国は、ISO 18404:2015の提案/プロジェクトリーダ国であり、この国際規格の発行を受け即刻、BS規格化し、本年2月2日にはBSIとRSS(王立統計協会)によりBS ISO 18404 Launch Eventを開催しました。RSSは、2016年中に各認証機関から何社かを選び本規格のPilot Runを行なう計画で、それを英国認証機関認定審議会(UKAS)がオーソライズし、その後、欧州認定協力機構(EA)と同調をとることを考えていると表明しています。Launch Eventの中では、この国際規格の利点の一つとして取引時の差別化、主要専任者のトレーニングと認証の手引き、をあげています。

4.日本のシックスシグマの現状
 近年、シックスシグマを推進している欧米の企業に自社製品を供給する日本の企業が、相手先からシックスシグマの実施、専任者の配備を求められるケースが多く発生しています。日本でシックスシグマを実施している企業のタイプは次の三つに大別できますが、分類(3)の企業が年々増えています。
(1) 外資系企業で、本社の指示により全社展開の一環で実施、
(2) シックスシグマを理解して、自主的に導入、実施、
(3) 欧米の取引先からの要求で、特定部門だけ、または会社全体でシックスシグマを導入、実施

5.日本のTQM活動に与える影響
 ISO 18404:2015が発行されたからと言って短期的には日本の企業が行なっているTQM活動への影響は殆ど見えないかもしれません。しかし、プロセス改善の定量的方法としてシックスシグマ活動を定義していることから、品質マネジメントシステムにおけるプロセス改善にはシックスシグマを導入しなければならない、そのための要員はこの規格による認証を受けなければならない、というロジックで、日本のTQM活動にも将来的には大きな影響を与える可能性があります。特に、独自の発展を遂げてきた品質教育に多大な影響を与えかねないことも考えられます。
 日本のTQM活動、現場改善活動をお手本に考え出されたシックスシグマ、リーン、リーン&シックスシグマが世界の共通語になり、国際規格になっています。JSQC会員も、この機会にそれらの内容を知っておくことが、グローバルにビジネスを展開する上で必要ではないでしょうか。

【ISO 18404:2015の英和対訳版が日本規格協会から3月1日発行されました。】


私の提言
クローズド・ループ・サプライ・チェーンにおける品質マネジメント

 
首都大学東京システムデザイン学部 准教授 開沼 泰隆

 従来のサプライ・チェーンは、資材の調達から製造、輸配送、顧客への販売までを一つの繋がりとして捉え、それぞれが品質、量・納期、コストを適正化し、さらに情報共有することで顧客満足を向上させ、全体最適を目標とするものです。これをフォワード・サプライ・チェーン(FSC)と呼びます。クローズド・ループ・サプライ・チェーン(CLSC)は、調達から販売までのFSCに使用済製品の回収、リユース、リマニュファクチュアリング等を行うリバース・サプライ・チェーン(RSC)を統合した広義のサプライ・チェーンとして捉えることができます。循環サプライ・チェーンやグリーン・サプライ・チェーンなどの用語は同義のものです。
 近年、企業ばかりではなく学術界においてもCLSCは、1)環境への配慮やサステイナビリティの追及、2)環境にやさしい製品・サービスの生産や販売など環境に係る法律の遵守、3)リユース・リサイクル活動の収益性の認識、という点で、社会に貢献できる取り組みとして数多く実施されてきています。しかしながら、企業におけるCLSC実践のレベル、学術界におけるCLSC研究の量も質もまだ十分であると言えず、より一層向上させる必要があると考えられます。例えば、RSCにおける回収製品に関するタイミング、量、品質の不確実性など様々なものの情報の不確かさはFSCに比較すると大きく、CLSCに関する研究及び実践を困難にしていると考えられます。
 このように困難な不確実性に関する点について、欧米では理論・実践に関する研究が実施されてきています。特に、品質の分野に関しては、SQC、QM、TQMを始めとする多くのQMツールをCLSCの分野に活用し成果を上げてきています。また、CLSCとQMの両方の研究分野の相互作用により、新しいCLSCの知見も得られてきています。
 日本においては回収製品のリユース、リマニュファクチュアリングの推進は、リマニファクチュアリング製品の品質(信頼性)への懸念、マーケットのカニバリゼーション(共食い効果)効果への懸念を反映して、理論・実践の研究はまだ途上にあるのが現状です。
 これまで日本のメーカーやサービスプロバイダーが行ってきたFSCにおけるQMの普及と発展の経験を基に、 CLSC領域におけるQMに関する研究、実践が活発に実施されることを期待します。


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