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JSQCニューズ 2015年 6月 No.341

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■トピックス:日科技連 第100回記念 品質管理シンポジウムに寄せて〜これからの品質を考える〜
■私の提言:「実工学」の学びと統計的品質管理
・PDF版はこちらをクリックしてください →news341.pdf

トピックス
日科技連 第100回記念 品質管理シンポジウムに寄せて
〜これからの品質を考える〜

トヨタ自動車 相談役・技監/日本科学技術連盟 理事長/中部品質管理協会 会長
佐々木 眞一

 毎年、箱根ホテル小涌園で年2回開催されてきた品質管理シンポジウムが、今年6月に100回目を迎えた。日科技連では、産業界に品質管理を普及・展開することの一環として、継続して開催してきたが、この積み重ねが、ある意味ではわが国の品質管理の歴史を物語っていると言っても過言ではない。

 第1回の品質管理シンポジウムは、1965年(昭和40年)6月に開催され、テーマは「品質管理の導入・推進・定着」であった。昭和30年代に開発・展開された様々な品質管理の考え方や手法が、世界に先駆けてTQCとして集大成され、多くの企業に導入されていった。日本の高度経済成長期と重なり、大量生産による高品質な日本製品は、瞬く間に世界中に広まっていったのである。
 この間、品質管理シンポジウムは、産業界に広く品質管理に関する今後の方向性を示す場として、企業経営者に大きな影響を与えてきた。企業を取り巻く環境は絶えず変化しており、顧客の要求・期待も一律ではない。こうした変化に的確に対応して、顧客の満足を獲得し続けることで、はじめて企業は持続的な成長が可能となる。品質管理は、企業が新たな顧客価値を創造し、生み出した価値を保証するための考え方・手法を提供してきたのである。
 学と産の専門家が箱根に泊まり込み、熱のこもった議論を重ねてきたことが、新たな品質管理の考え方・手法の確立へと結びつき、企業での実践を通して日本の国際競争力を高めていった。品質管理は、第二次世界大戦後の復興から高度経済成長へと、まさに日本の発展を支えてきたのである。そして、半世紀に及ぶ品質管理シンポジウムの果たしてきた役割も、極めて大きなものであったことは論を俟たないであろう。これからの50年も、世界をリードできる日本発の品質管理が創出される場となっていくことを期待したい。

 一方で、現在の日本を取り巻く環境はかつてないほど厳しさを増している。直近ではアベノミクス効果で企業業績も一部持ち直してはきたが、中長期的には、環境・エネルギー問題、少子高齢化、イノベーションへの取り組みなど、多くの課題を抱えている。また、製品安全に係わるリコール、医療事故、航空機・鉄道のインシデントなど、基本の徹底が出来ていないと思われる事故や事件が後を絶たない。
 さらに、日本のホワイトカラーの生産性は、諸外国に比べて劣っているというデータもある。産業界の中でも主に製造業の現場で培われてきた品質管理の基本が、今まさに日本のあらゆる企業・組織に求められているのである。ところが、大変残念なことだが、組織的な品質管理の導入・実践は、極一部の企業・組織に留まっていることも厳然たる事実なのである。

 1980年代、国際競争力が低下した米国は、日本のTQCの特長である「改善」「全員参加」などの状況を調査して自国に取り込んでいった。そして「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」が設立され、製造業だけでなくサービス業、病院、学校、官公庁などあらゆる組織に品質管理の実践を奨励したのである。このことが、その後の米国の競争力回復の原動力になっていったと言われている。
 現在の日本は、かつての米国のように、あらゆる組織に品質管理を普及して、その実践を促さなければならない状況にあると言える。今日まで、品質管理の普及・展開に取り組んできた組織は日本には数多く存在しており、日科技連もその代表的な一つである。1946年の創立以来、日本の品質管理の発展に中心的な存在としてその役割を果たしてきた。今後もその使命を果たし続けていくためには、環境変化に応じて、新たな分野に挑戦していかなければならない。今までのやり方を見直して、多くの他の組織との連携を図り、総合力として日本全体の底上げにつなげていきたいと思っている。

 第100回記念品質管理シンポジウムにおいて、日本品質管理学会の大久保会長が、品質関係団体のアンブレラ的連合(JAQ(仮称)Japan Association for Quality)の形成を提唱された。非製造業および中小企業も含めた日本のあらゆる分野の企業・組織に品質管理を普及していくためにも必要なことと、日科技連、中部品質管理協会の立場からも賛同し、積極的に取り組んでいく所存である。オールジャパンで、品質の向上に努めていくことこそが、日本の明るい未来を約束できる唯一の道であると確信している。


私の提言
「実工学」の学びと統計的品質管理

 
日本工業大学 工学部 共通教育系 丸山 友希夫

 私が勤務する日本工業大学は、埼玉県南埼玉郡宮代町にあり、学園としては創立108年、大学としては創立48年と歴史の長い大学です。このような歴史ある大学に勤務して早1年8ヶ月が経ち、本学の面白さについては日に日に増す状態となっています。本学における第一の特徴は、工業高校出身者を受け入れる機関であることです。そして、カリキュラムは技術と理論を同時に学び、プロジェクトリーダになれる人材育成を養成する教育理論の基に組まれています。この教育理論が本学における第二の特徴であり、本学ではこれを「実工学」教育と呼んでいます。この「実工学」教育では、1年次から実習、演習科目が設定され、まずは手を動かして成果物を作ろう、そして成果物についての概念、理論を座学において深める、応用させる、補う教育方法となっています。もちろん、概念、理論を学んでから実習、演習を通して技術力を養う科目も存在しています。このように、技術と理論を同時に学ぶことから、「実工学」教育方法を“デュアルシステム”と呼びます。
 この中で、私は主として確率・統計T、Uの講義と情報工学科にて卒研ゼミを担当しています。工学部出身者であるならば、データを様々な視点から整理し、簡単なデータ解析・分析をし、さらに解析・分析結果を評価する品質管理的な術をもって社会で活躍をしてもらいたいと私は常々考えております。もちろん、この思いは本学における多くの教員も同じです。
 今日では統計解析ソフトも充実し、比較的容易に統計的手法を用いたデータ解析・分析が行えるようになっていますが、分析・解析結果について満足に評価を行えていない状況に多く遭遇します。ただ、幸か不幸かは分かりませんが、本学ではPC教室が多くないため、演習問題の取り組みに関数電卓を用いています。さらに統計解析ソフト等での解析方法を同時に提示することにより、演習する環境としては最適でない状況に対して学生自身が解析方法等を工夫することにより、統計的手法の概念や理論に対する印象が深まり、本学が掲げる「実工学」教育の中に品質管理的な考えを少しは組み込めていることを期待したいです。そして、本学出身者が品質管理大国である日本国を支える一人として活躍し続けることを願うばかりです。

 


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