2018年10月10日(水)の午後、日本科学技術連盟・本部において、第134回講演会「レジリエンス工学の最前線−“想定外”に備えるために−」が開催された。
第T部は、東京大学大学院 工学系研究科 レジリエンス工学研究センターの古田一雄先生が「レジリエンス工学」というテーマで講演された。従来のリスクマネジメントの考え方では現実に対処できなくなりつつあり、システミックモデル(創発的変動性)に基づく新しいアプローチが求められていること、複雑系における事故のシステミックモデルやレジリエンス工学の発想が、これを解決するための有力な手がかりになり得ると述べられた。
第U部は、東京大学大学院 工学系研究科の糸井達哉先生が「自然災害とレジリエンス」というテーマで講演された。レジリエンスの概念は、従来の自然災害リスクに対するマネジメントの考え方の拡張であるとし、特に、構造物等を中心とした人工システムから、人と社会へと評価の対象を拡張することを志向している点について述べられた。さらに、レジリエンスを有するシステムの2つの特徴として、災害リスクの低減・被災後の復旧の観点、社会や社会科学の長期的な変化に対する対応の観点を挙げられた。
第V部は、東京大学大学院 工学系研究科の菅野太郎先生が「重要社会インフラのレジリエンス」というテーマで講演された。都市の災害レジリエンスでは、複合的相互依存性の考慮が必要であること、エージェントベース×ネットワークモデルによるシミュレーションが可能であること、様々な価値観・政策(目的関数)下での復旧効率の比較・評価が可能であること、災害レジリエンス評価、BCP設計・評価、インフラアセットマネジメント等への応用が可能であることを説明された。
最後の第W部では、東京大学大学院 工学系研究科の小宮山涼一先生が「エネルギーシステム」というテーマで講演された。エネルギーシステムのリスクから、レジリエンス強化策の評価手法として、費用と便益、確率的状態遷移、確率動的計画法について述べられた。そして、分析事例として、日本のエネルギー安全保障向上施策の評価、関東圏・首都圏のエネルギー供給レジリエンスについても解説された。
企業としても避けては通れないレジリエンス工学について、講演後の質疑応答も活発に行われるなど、有意義な講演会であった。
戸羽 節文(日科技連出版社)