第395回事業所見学会が、2017年5月12日(金)に(株)神戸酒心館に於いて参加者27名で行われた。
神戸酒心館は、ノーベル賞の晩餐会で振る舞われたことで一躍世界的に有名になった銘酒「福寿」の蔵元として、「灘五郷」で伝統を守りながら大手企業に負けない清酒造りに取り組んでおられる。近年は管理プロセスのデータ化を重点課題として、更なる高品質な酒造りに取り組んでおり、伝統を継承しつつ近代化を目指すものづくりについて学ぶ良い機会となった。
スライドによる説明と工場見学の後、20分ほど質疑応答が行われた。説明は湊本支配人が担当され、ワインの話から始まり、お酒の発祥や製造法、ワインとの違い、麹や旨みの話など、きめ細かで大変わかりやすい説明とその話術に引き込まれた。質疑応答も非常に活発で時間の制約が恨めしく感じられた。
同社の大きな特徴は、杜氏に頼らない製造方法への方針転換である。大手企業とは異なり、杜氏の確保も難しく12年ほど前に9名の社員だけで製造することにしたとのこと。品質管理という言葉やQC手法を使っておられるわけではないが、杜氏の暗黙知を形式知化し標準化していく作業を地道に続けるというQCの王道ともいえる活動が行われている。また、麹を育てる容器を木箱から、プラスチックに変更することで外界と遮断し管理を容易にしたことにも、QC的な考え方が活用されていると感じた。
その他にも、元国税局の上田先生を技術顧問に迎えて勉強会を開催し続けるという努力や新滅菌設備の導入、生産規模の維持と北欧への市場開拓、今後の料理の趣向に合わせた評価の開発、酒蔵に併設のコンサートホールや食事処の開設等々、キリがないほど様々な工夫がなされていた。中小企業が生き延びる為に明確なビジョンを持って取組んでおられる姿勢に、ビジネスの視点からも非常に興味深く参考となる一日であった。
長谷川 伸洋((株)カネカ)