雨交じりの曇天の中、中尾氏の講演会が開催された。非常に気さくな話しぶりで、とても和やかな雰囲気で始まった。大きく三部構成となっており、「日本の変化」、「福島第一原発事故」、そして「what to design」の順番で講演された。
第一部冒頭から、大学で起きた実験中の爆発事故やボヤ騒ぎなどの生々しい写真を示しながら、「爆発は気が緩んだ後片付けで発生する」とまとめる。私たちの世界になぞらえてみると、「大きなトラブルはメンテナンスや段取りなどの付随的な作業中に起きる」ということであろう。その種の作業は、ルール作りや、その教育・訓練が不十分で、臨時作業者や非熟練作業者が従事することが多い。第二部では東日本大震災での福島第一原発事故について、何がそもそもの「地雷」だったのか、事故当日のテレビ会議の動画などを交えてわかりやすくお話しいただいた。原子炉には非常事態に備え三段階の冷却機構を備えている。緊急停止後に圧力容器が高温・高圧になっていることを利用する「高圧冷却」、ある程度冷めてくるとバルブを開き内部圧力を下げてポンプなどを用いる「低圧冷却」、最後に熱交換器を用いた「循環冷却」の三段階である。中尾氏曰く、福島事故は、低圧冷却に移行するためのバルブ開口にはバッテリーかコンプレッサーが必要であり、普段なら簡単に調達できるものが震災直後十分に調達できなかったために低圧冷却にスムースに移行できなかったことがポイントである。バルブを手で開けられる、高所から電源を引けるなどしておけば、ここまで大きな被害は発生しなかった、と。「まさかの失敗」は設計に潜む問題点であり、論理的に見つけ、つぶすことができる。法律などで強制されていないから、めったに起きないから、などと見て見ぬ振りが一番の問題であると言う。第三部では、工学者の気付き=類似感と芸術家の気付き=違和感について、大学での新しい形の講義などを例に話された。
時間が尽きてしまったため、速足での説明になってしまったが、魅力的な商品の開発には「違和感」が大事、というポイントは説得力があった。大変有意義な時間であった。
兼子 毅(東京都市大学)
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