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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2013年 11月 No.328

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■トピックス:価値創造の多様化と新産業創出
■私の提言:品質管理の基本のキ「日常管理の指針」
・PDF版はこちらをクリックしてください →news328.pdf

トピックス
価値創造の多様化と新産業創出

Stanford University/慶応義塾大学 福田 収一

 これまで品質は製品機能を主体に考えられてきた。しかし、品質の「品」は本来「違い」を意味し、製品の質ではなく、他製品との違い、価値を意味している。すなわち、顧客の期待する価値をいかに創造し、新しいマーケット・セグメントを確保することが本来の品質である。この観点に立つと品質の問題は新産業創出にきわめて深い関係を持つことがわかる。

 さて、産業の発展を見てみると昔は単一企業が逐次処理で完成品を生産していた。そこにコンカレント・エンジニアリング(CE)が導入され、知識が工程を超えて共有され、逐次処理が並列処理へと変わり、生産効率が大幅に向上した。最近は単一企業枠を超えて複数企業へ、さらに業界の枠を超えて異業種間で並列分散化が進みつつある。CEは、物理的製品の共有は容易でなくても、非物理的知識ならば共有が容易であることに注目して発展した。したがって、知識共有が単一企業を超え複数企業へ、さらに異業種間へと進むことはある意味では当然の流れである。
 ところが、最近自動車の車台の共通化のように物理的な中間財の共有が急激に進み始めている。中間財を共有できれば、当然コストは大幅に削減でき、生産性が大幅に向上する。エネルギー消費も大幅に削減でき環境に優しい。
 中間財の共有化がさらに進展すれば、非物理的な知識が異業種間で共有されたように、物理的な中間財についても、業種枠を超えた共有化へと進むと予想される。異業種間で中間財が共有されるようになると産業はレゴ化し、並列分散処理型となる。中間財企業は、多くの異業種完成品企業に製品を提供でき、一方、完成品企業は特定製品に固執することなく、自社技術を活用し、中間財を組合せさまざまな完成品を実現できる。すなわち、中間財企業にとっては販路の大幅な拡張、企業経営の安定化、永続化が容易となる。一方、完成品産業も変化の激しい時代に特定の完成品に固執する必要がなくなり、状況変化へ即応でき、ロバストネスを大幅に向上できる。
 産業革命以降、専門化が進み、生産者と顧客に分離され産業が発展してきた。上述の変化は非常に大きい変化であるとは言え、基本的に産業革命以来の生産者と顧客に分離した考え方で、いかに顧客を満足させ生産者の利潤をあげるかの立場である。
 しかし、最近これとはまったく異なる大きな変化が起きてきた。上述のシステムはいずれも基本的にオープンループシステムである。生産者がよいと思うモデルで製品を生産し、顧客に提供する。ところが、21世紀を迎え、顧客からのフィードバックを活用するクローズドループシステムが注目を集めている。これは、健康をこれまでは医者の視点で考えてきたのを、生活者の視点から考え直そうと言うことに相当する。医者がいくら「あなたは健康です」と言っても、自分なりの生活が楽しめないのでは、誰も健康とは思わない。逆にいかに医者が「酒の飲みすぎです。不健康です。」と言っても、自分が楽しく酒が飲めれば、健康だと思うであろう。すなわち、医者の健康≠生活者の健康であり、良い製品≠良い商品ではない。これまでは価値=パフォーマンス/コストにおける、パフォーマンスを製品機能と考えてきた。
 しかし、最近はパフォーマンスとは顧客の望み、期待にいかに応えるかを意味する。20世紀は、顧客は受け身で、生産者が提供する製品で満足していた。それはモノ不足の時代であったからである。21世紀は精神的な満足がパフォーマンスとなる。もともと顧客は英語でカスタマーというようにカスタマイズすることを望んでおり、製品を自分のニーズ、好みに応じて使いたいと思っている。さらに最近のパーソナルファブリケーションの急激な普及が示すように顧客は生産にまで関与し、創造の喜びを得たいと願っている。マズローは人間の最高の欲求は自己実現であると指摘した。顧客は自己実現を望んでいる。これからはプロダクトだけでなく、プロセスが重要な価値を持つ。ウエブ2.0のように生産者と顧客の区別が消滅し、両者が一体となり協働で製品実現を楽しむエンジニアリング2.0の時代が近づいている。


私の提言
品質管理の基本のキ「日常管理の指針」

松田技術士事務所 松田 啓寿
 私は業務上さまざまな規模の現場で、品質(広い意味での品質=要求への適合の度合い)の実現方法について、意見交換させてもらうことがあります。それぞれの事情に応じて、「品質の実現」を確実にするための工夫が凝らされていて、頼もしく感じることが多いのですが、その一方で改めて感じるのは「日常管理の正しい運用によるプロセス安定化」の重要性です。設計and/or 工程パラメータ最適化のために計画した実験を運用しても、誤差分散が落ち着かないために、実験から得た知見が将来も保証されるかどうか分からない、あるいは制御を目的とした回帰式を使っても、どうにも残差が行儀よくひとつにまとまってくれない、など、いずれも特性の挙動を決定づけるプロセス系の「ナニか」を捕捉できていない場合に観察される現象です。
 こういうときは急がば回れ。では「いつものばらつき」を把握するために、日常管理を点検しましょう、となるとさて困った。ハデなネーミングの管理技術群と違って、日常管理を正しく取り上げて現場ですぐに使えるツールは意外と少なかったりします。もちろん、偉大な先達が著した分厚いバイブルには相応の情報がテンコ盛りなのですが、現場で「これを読んでね」と手渡せるかというと、少々ムリがあります。では自分自身で著すかといってもその力量もなく、途方にくれているところに、好適なツールが提供されました。
 今般発行された日本品質管理学会規格「日常管理の指針」(JSQC-Std 32-001:2013)は、必要にして充分な(と感じられる)情報がまとめられていて、組織の現場で活用するにはちょうど良いパッケージです。
 現場では「ウチは他と違って『特殊な製品・プロセス』だから、一般的なニチジョーカンリのツールは適用しづらい」という声に遭遇することがあります。ところが現場で起きていることをよく観察してみると、この指針に含まれている「レベル評価基準」の「レベル××」に該当していて、なるほどと納得することができます。製品要求事項(顧客要求だけではなく、組織が必要とする要求も含めて)の変化に対応して、スピード感のある新製品開発のためにまず、「いつものばらつき」を把握し安定させること。マネージャーは最低10回以上この指針を熟読し、理解し行動すれば確実に実現できます。現在いくつかの現場で実際に挑戦中。さて、結果やいかに?


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