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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2012年 11月 No.320

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■トピックス:グローバル時代における日本的品質管理に根差した概念
■私の提言:三足のわらじ
・PDF版はこちらをクリックしてください →news320.pdf

トピックス
グローバル時代における日本的品質管理に根差した概念
―JSQC規格“品質管理用語”を踏まえて―

第38・39年度 標準委員会委員長/前田建設工業 村川 賢司

時代とともに変わるもの
 言葉は生きものとして時々刻々と移ろっていく。文化庁の「国語に関する世論調査」によると、一時しのぎを意味する「姑息」を“ひきょうな”ととらえる人、また失望してぼんやりとしている様子を意味する「憮然」を“腹を立てている様子”の意味にとらえる人は、7割を超える。また、働く人の座右の銘ともいえる「不言実行」をもじって作られた「有言実行」が広辞苑(第六版)に載るなど、言葉の使われ方はその是非を問わず時代とともに揺らぎ、意味が変化していくのが常である。
 加えて、グローバル時代を迎えて政治、経済、文化などの様々な領域で空間的・時間的な距離が著しく縮まり、グローバル社会の健全な発展へ向けて、透明性や公正性、国際的に共有できる概念や規範づくり、非関税障壁の撤廃などが強く訴求されている。
 品質管理の分野においても、ISO9000シリーズに代表される国際標準が、時代の要請に併せて進化しているが、日本の文化や風土に沿った適用において一方ならない苦慮−例えば品質管理用語の解釈相違など−を経験している。

 JSQC規格“品質管理用語”の意義
 このような背景のもとで、JSQC規格(日本品質管理学会規格)の皮切りとして、品質管理に関する147用語の定義が、その概念とともに公開された。このJSQC規格は、世界標準との整合への配慮を欠くことなく、品質管理を実践する人にとって日本の文化や風土を踏まえて、実務で活かせる用語の定義が不可欠であるとの認識のもとで発行された。
 ISO9000シリーズの浸透によって、マネジメントシステムの整備が進んだ反面、JIS Z 8101:1981の統計用語以外の部分の定義が廃止されたことなどから、品質管理の実践で基本となる用語の概念が分かりにくくなった面が否めない。用語の定義のように品質管理に関する重要な概念や規範は、様々な領域の研究、実践、応用において基盤となるものであると同時に、日本の文化や風土に根差した日本人の感性に馴染んでいなければ、実務で活かしにくい。このような観点から、品質管理の実践に不可欠な概念や規範の拠り所となるJSQC規格づくりが現在進められつつある。

グローバル時代を先導するメッセージ
 2012年のノーベル平和賞が欧州連合(EU)の27か国に授与される報は、受賞対象国でも動揺があったと聞く。この授賞には、平和への貢献とふたたび分裂の道を歩まないようにというノーベル賞委員会のメッセージが込められており、強いインパクトを伴った。
 第2次世界大戦後の日本経済の復興に貢献し、また世界の品質管理へ影響を及ぼしたとされる日本の品質管理の概念や規範は、グローバル時代においてISO9000シリーズなどの開発へ寄与したと考えている。さらに、ISO9004(組織の持続的成功のための運営管理−品質マネジメントアプローチ)は、日本発のJIS Q 9005(質マネジメントシステム−持続可能な成長の指針)を重要な基本文書に位置づけて改正された。これらの事例は、日本的品質管理に根差す概念や規範を明確なメッセージとして発信することが、国際的な枠組みを先導し、長期的な視点で国益をもたらすとの示唆を含んでいる。

品質管理学会が担う使命
 マネジメントシステムの共通テキストを用いるISO9001の改正作業が始まった。この機会を逃さずとらえて、JIS Q 9005やJSQC規格“品質管理用語"に例えられるように日本の文化を深く宿してはいても、世界の品質管理をリードし得る特長のある管理技術・固有技術を研究開発し、明確な形で世に問うことが、日本の将来の礎となり、ひいては健全なグローバル社会の発展に資するのではないだろうか。品質管理に関する長年の研究成果の蓄積などの多くの知見を有する当学会が果たす役割は極めて大切であり、学会員諸氏による品質管理の発展を期する諸活動への期待が高まっている。

 


私の提言
三足のわらじ

大阪大学 大学院情報科学研究科 森田 浩

 二足のわらじとは、異なる種類の職や担当を兼ねることをいう。同じようなことを掛け持ちしていても、二足のわらじとは言わないらしい。私は日本品質管理学会(JSQC)の他に、日本オペレーションズ・リサーチ学会(ORSJ)や日本経営工学会(JIMA)にも所属している。これらの学会は、ある面では同じものを対象としているので、これらの学会で活動しているからといって、三足のわらじならぬ、二足のわらじをはいているとは言わないということである。これらの学会は、その視点が違うのだと若いころに聞かされた。JSQCでは品質、ORSJではコスト、JIMAでは生産性らしい。当時、なるほどと変に納得したものであった。
 実際のところ、興味や観点はやはり違うのだろうか。生産計画に対しては、ORでは最適化によってコスト最小となるスケジュールを考える。QCでは工程内不良を出さないような生産管理によって品質を確保しようとする。IEでは生産性を上げるべく作業効率を改善する。たとえば、納期に間に合うようにスケジュールを最適化して求めたとしても、不良品が出れば納期には間に合わない。人員配置の効率化を図ったとしても、生産性が上がるとは限らない。品質を確保するのはハード的な側面が強いが、それをより効果的にするには数理的最適化は不可欠である。また、スケジューラなどの導入によるシステム化が行われても、それを実効あるものにするための管理技術も必要である。TQM活動は、これらをすべて包括するような取り組みが行われているものと考えてはいるが、QCではIT技術やデータ活用においては具体的な最先端技術についての議論は少ない。逆にORでは個別の案件に対するシステム化については目覚ましい成果が上がってきているが、それが本当の改善につながっていることの議論は少ないように思われる。
 学会での活動がすべてではないものの、大学関係者でもそれぞれの学会に参加して共通にお会いする方はあまり多くはない。同じ会社の方にお会いしても学会によっては違う方である。それはそれで交流が広がるのでよいことではあるが、どうしても垣根を感じてしまう。やはり三足のわらじをはいているのだろうか。いや一足のわらじで動き回れるようにしたいものである。


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