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JSQCニューズ 2006 11月 No.272

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■トピックス:ANQ Congress 2006報告 ─ますます広がるアジアの輪 来年は韓国─
■私の提言:『タグチメソッドとSQCの融合を!』
・PDF版はこちらをクリックしてください →news272.pdf

■ トピックス
  ANQ Congress 2006報告 ─ますます広がるアジアの輪 来年は韓国─

国際委員会委員長 安藤 之裕

 去る9月27、28日の両日(29日:企業訪問)シンガポールにて、ANQ Congress 2006が開催された。 1991年に日本、韓国、台湾の参加国で始まったAsia Quality Symposium から数えて20回目、 それを発展させてAsian Network for Quality(ANQ)になってから4回目の大会であった。

 ANQは、今年、ロシアの新規加入を含めて現在16組織が参加しているが、 今回はそのうちの14組織とヨーロッパ・アメリカからの参加者も含めて400名あまりが参加した。 JSQCからは、シンガポール以外では最多の41名が参加し、また、発表件数も最多の32件となり、多大な貢献が果たせた。

 基調講演では、日本から、ANQ名誉会長であり、本学会元会長でもある、狩野紀昭東京理科大学名誉教授による、 アジアの近代の歴史を踏まえた「品質汗かき論」と、本学会第35年度会長の桜井正光リコー社長による、 同社の顧客満足・環境戦略に関する具体的な取り組みが紹介され、ともに非常に高い評価を得た (基調講演概要はANQ-WEBサイト=http://anforq.orgに掲載される予定である)。

 今大会で特筆されることに、発表件数が非常に多くなったことがあげられる。 今回はパネルセッションも含めると144件にものぼった。それだけ、発表の場としての認知が高まったといえよう。

 また、特別セッションとして、JSQCによる「サテライトセッション」も実施した。 これは、シンガポールの会場と日本、インドとをインターネットで結び、 両国での発表にもとづいてシンガポールと議論するというものである。

 日本からは、玉川大学の大藤正教授にQFDの基本についてご講演いただいた。 このサテライトセッションは、一昨年のインド大会の時は、筑波大学司馬正次教授にご出馬いただいたものの、 開始1分前に回線が遮断したり、その後も安定しなかったりというハプニングを体験したが、 今回は、武蔵工業大学の兼子毅講師による技術的向上により、実に明瞭なコミュニケーションが安価に実現できた。 これは、アジアに散在しているANQ組織間のコミュニケーションをより豊かにするものとして、今後の活用が期待される。

 本大会に参加して常に感じることは、アジアの熱気とダイナミズムそして人なつこさである。 戦後の復興期から高度成長そして品質で世界のリーダーシップを取ったといわれる90年代半ばまで、 日本を支えていたあの熱気と品質に関する情熱である。それが、発表や討論のみならず、会場全体に彷彿としており、 人なつこい参加者と触れ合うことにより、非常に心地よいのである。

 大会を締めくくる、Farewell Dinnerの中では、若手発表者の中から優秀論文が選ばれて表彰された。JSQCからは以下の3名であった(敬称略)。
   加藤省吾(東京大学)
   栗原一馬(早稲田大学)
   奥田道明(東京理科大学)

 来年は、10月16・17日(18日企業訪問)に韓国ソウル近郊で開催が予定されている。是非、今からご予定いただき、アジアのダイナミズムを実感していただきたい。  なお、本大会はANQ Wayにもとづき、質実剛健に運営されるために、 他の国際大会と比較して参加費用が大変安く設定してある。これを可能にしたのが、経済的にご支援いただいた企業各社である。 最後に、改めてお礼申し上げる次第である。


■ 私の提言 『タグチメソッドとSQCの融合を!』

早稲田大学 理工学部 経営システム工学科 教授 永田 靖

 SQC(統計的品質管理)では、操業データ・市場データ・実験データに基づき、 現状把握・原因究明・要因解析・予測などを行う。このとき誤差は自然発生的なものである。 それに対して、バラツキの原因を誤差因子として扱い、それをわざとに大きくふってバラツキを意図的に作り出し、 そのバラツキを小さくする制御因子とその水準を見いだす手法がタグチメソッドのパラメータ設計である。

 パラメータ設計では、誤差因子による変動は自然発生的な誤差を凌駕するはずだから、 確率分布を考えないと強調されてきた。その方針がSQCとタグチメソッドの融合を阻んできた。

 最近、タグチメソッドの手法としてMTシステムが広く用いられている。 これは、マハラノビスの距離に基づいて異常パターンを発見するための手法である。 多変量解析法の判別分析とは異なる視点をもつ。管理図の拡張とも言えるが、 多くの変量間の相関を考えてものごとを見るという姿勢を広く浸透させた点はとても好ましい。

 MTシステムは観察研究を行う手法であり、タグチメソッドの中では異色である。 観察研究のときは、自然発生的な誤差を扱うので確率分布を考えることが合理的である。 ここにSQCの考え方や理論が融合する。

 自然発生的な誤差の中から何かを見いだすことには、SQCの先人が努力して蓄積してきた手法とノウハウがある。 それとMTシステムとを融合することより、観察研究の方法論がより発展することが期待される。

 パブリケーション・バイアスという言葉がある。文献として登場するのはうまくいった事例ばかりであり、 それらだけを鵜呑みにするとバイアスがかかってしまうという意味である。したがって、成功事例だけでなく、 失敗事例を異なる視点から検討するのが有効である。例えば、誤差因子の取り方、調合の仕方、 確認実験で利得が再現されなかったときの分析、さらには、SN比の選定の合理性をSQCの立場から考察することが大切だと 考えている。このような観点から、本来はタグチメソッドとSQCは融合しながら用いるべきだったと思う。 しかし、それをうまく果たすことができなかった。

 いま、MTシステムの普及により、タグチメソッドとSQCの融合の絶好の環境ができあがったと思う。


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