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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2006 8月 No.270

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■トピックス:ソフトウェア品質保証に対する品質部門の取組みについて
■私の提言:「データで語る」能力の育成
・PDF版はこちらをクリックしてください →news270.pdf

■ トピックス
  ソフトウェア品質保証に対する品質部門の取組みについて

つくば国際大学 保田 勝通
●ソフトウェア開発の問題と取組み
  1. 開発作業の悪しき風習
    上流の設計工程を拙速に済ましているため、設計と仕様書の質は悪く、レビューも十分でない。 そのため、下流のテスト工程の大半がデバッグに費やされている。デバッグとは前工程の不良の除去作業であり、手戻り作業である。 テスト工程が全工程の50%を占め、検証として必要な本来のテストは高々10%とすると、何と40%が手戻り作業(仕損)である。 これだけ堂々と手戻り作業を容認している業種は見当たらないのではないか。
     [対策]手戻りの少ない開発作業の実現
     経営者・管理者が、テスト工程の大半を占める「デバッグ作業」は手戻り(仕損)であるという認識をもって、まずその実態を調査すべきである。
     この具体策は、「要求定義や設計工程で、ソフトウェア工学の知見を駆使して十分な時間をかけて設計を行い、 ソフトウェアインスペクションのようなレビュー技法による徹底的レビューを行う」ことである。 これにより、テスト工程の大半を占めるデバッグ作業が激減し、開発効率も品質も飛躍的に向上する。

  2. 脆弱な開発・品質管理体制
     進捗状況や品質(不良発生)状況が把握できない、成果物が慢性的に遅延する、不良が多発し、収束しない等々が常態化している。
     [対策]品質管理体制の強化
     現状の問題点の洗い出しから始める。形骸化した規格に囚われず、PDCAを回す仕組み、進捗・品質の可視化、外注先に対する現物・現場主義の励行等、開発・品質管理体制の抜本的改革の絶えざる推進が必要である。

  3. 劣悪な労働・作業環境
     慢性的な長時間残業による作業効率とモラールの低下の悪循環は、頭脳労働のソフトウェア開発では、特に品質への影響が大である。
     [対策]労働・作業環境の改善は経営者・管理者のやる気の問題
     残業ゼロ達成のために各人は何をすべきか、改善テーマを掲げて挑戦する。

  4. 人材育成の遅れ
     ソフトウェア工学の習得レベルが極めて低いのが現状である。情報分野専攻学生の採用や、企業内教育が不十分である。
     [対策]人材育成への大幅投資
     だれに何を教育すべきかは、ITスキル標準等で分かっている。経営者は人材採用と人材育成のために、 経営資源を思い切って投入すべきである。

  5. 人月単価ベースの外注体制
     開発効率や品質ではなく、人月単価という、いわば「汗の量」で評価するため、生産性や品質を向上させるインセンティブがない。
     [対策]人月単価ベースの外注依存体制の脱却
     人月単価ベースではなく、ソフトウェアの価値(機能量)ベースに契約の基準を変更し、 成果物の質と作業効率を評価できる体制を整備し、発注側受注側双方の共存共栄体制を目指すべきである。
     
●品質部門の取組み
 ソフトウェア品質の問題は根が深い。テストを強化するというような小手先の手段では解決できない。 しかし、現状を放置すれば、企業の死命を制するトラブルが発生するのは火を見るよりも明らかである。 以下に品質部門の取組みの例を示す。

  @品質の悪さ加減が分かる仕組みを作る。
  A 経営幹部に、いかにソフトウェア開発プロセスが問題か認識させる。
  Bソフトウェア品質向上施策を提言・実施する。
  Cソフトウェア「改善」活動を推進する。

  組織の一人ひとりが現状に満足せず、自らの問題を発見し、対策案を考え、実行して、失敗しても、 そのなかから、解決策を見つけ出す」という「改善活動」に、ソフトウェア開発組織をあげて直ちに取り組む。


■ 私の提言 「データで語る」能力の育成

 筑波大学 山田 秀

「データで語る。」これは品質管理の重要な基本である。 客観的に事実を測るためにデータを収集し、これに基づいてプロセスを改善する。 文章にすればこれだけであるが、この実践は容易ではない。個人の立場からは手法、定石を学習する必要がある。 また組織の立場からは、個人の能力をレベルアップさせる組織としてのしくみが必要になる。

立場からは、個人の能力をレベルアップさせる組織としてのしくみが必要になる。 直接的な成果を短期間で測るのが難しいという性質もあり、90年代からはコスト削減を理由に 「データで語る」能力の育成がおざなりになった組織も少なくはない。その反省からか、 近年はこの能力の育成に改めて力を注ぐ組織が増えてきたのは好ましい傾向である。 「データで語る」能力の育成は、サッカー選手の走る能力のようなものである。 一度その教育を怠ると、せっかく作り上げた文化がなくなってしまう。 そのためには、継続的に育成をするという強い信念が必要になる。

米国において、シックスシグマのブームの峠は越えたように思える。 シックスシグマというと、マスターブラックベルト、ブラックベルトなど、奇妙な名前に目が行くが、 その教育プログラムのほとんどが統計的手法に費やされることからも分かるとおり、「データで語る」が中心にある。 「データで語る」能力の組織的なレベルアップのために従業員間の競争が取り入れられていることは、 日本の典型的なアプローチとは異なる。これは、評価基準を見えやすくし、競争させるという米国流のアプローチが根底にある。

「データで語る」能力の育成には、個人の立場からも、組織の立場からも、能力を測る共通的なものさしがあるほうが分かりやすい。 先ごろ日本品質管理学会により認定された「品質管理検定」はまさにその共通的なものさしになりうる。 品質管理検定には組織運営なども含まれるものの、中核に「データで語る」があることに間違いはない。 組織間での人の流動性が高い米国の場合には、個人の能力実証という立場から認証制度が広く普及している。 すなわち、認証により「私は○○の能力があります」と主張できるからである。一方日本の場合には、 米国ほど組織間での人の流動性はなく、認証制度も米国ほど普及していない。このような状況にあるものの、 品質管理検定というしくみが、「データで語る」能力の育成に貢献することを期待している。


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