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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2020年11,12月合併号 No.384-385

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■トピックス:「社会基盤型輸送システム品質保証研究会」研究準備会の設置に当たって
■私の提言:顧客価値経営のすすめ
・PDF版はこちらをクリックしてください → news384-385.pdf

トピックス
「社会基盤型輸送システム品質保証研究会」研究準備会の設置に当たって

労働安全衛生総合研究所 岡部 康平

 この度、信頼性・安全性計画研究会から独立する形で、新規研究会設立に向けた準備会を設置する運びとなりました。新規研究会では、交通・物流系における自動・自律化の先端技術が社会インフラの基盤として社会に定着するために求められる品質管理、特に、品質保証の在り方について、学術的にも実務的にも検討を進める計画です。
 昨今の航空機や新幹線の運行に代表されるように、交通・物流分野の自動化技術は人(運転手)が手動操作するよりも、より安全で効率的な無人運行が可能なまでに進歩しています。この自動・自律化技術の発展は目覚ましく、既に、自動車、ドローン、移動ロボットなど多岐分野に及んでおり、新たな交通・物流系の社会インフラを築く重要な基盤技術になりつつあります。その一方で、人工知能技術の産業応用と同じく、未だ様々な技術課題を内包しており、また、技術活用のための社会制度の整備も十分ではありません。最新技術であるが故に、品質管理にまで議論が及んでいません。
 交通・物流系の社会基盤的な事業が成功するためには、多企業の様々な製品が混在する自律・分散系の運用制度と、それら製品群を統括管理する統合・管制系の運用制度との両立が重要課題となります。個別製品としての通常の品質管理だけでなく、公共サービスとしての品質管理も欠かせません。しかし、その様な包括的な運用体系、さらに、その管理体制は、議論や研究がまだ希少であり、それらの確立に向けて、より多くの科学的知見が求められています。
 これまでに信頼性・安全性計画研究会では、社会インフラの寿命設計や安全管理を1テーマとして議論してきました。社会インフラに求められる特有の品質概念などを検討しました。そして、より幅広く活発な活動へと展開を図るため、信頼性・安全性の枠を超えて、新たに研究会を立ち上げることにしました。この新規研究会では、交通・物流系の社会基盤的な新規事業の創出・参入を促進することを目標に掲げ、品質保証の観点からドローン等を用いた次世代型輸送システムの運用・管理体系を検討することにより、ドローン等の産業規格化や認証制度などの整備に貢献したいと考えています。
 準備会で検討するテーマは(1)自動車の自動安全運転技術、(2)ドローンの自動航行技術、(3)サービスロボットの自律搬送技術の3分野を予定しています。自動車分野における自動・自律化技術の実証実験は世界中で実施されています。ドローンの社会導入においても、国際航空法の改正や国際製品規格の新規策定などが世界規模で進んでいます。このような世界的競争の中で、日本でも国家的プロジェクトで自動・自律化技術の産業応用が推進されていますが、ビジネスモデル等の策定支援や事前評価をも支援する枠組みのあるプロジェクトは多くありません。準備会では、新規研究会の成果が新規事業のビジネスモデル等に反映されるように、新規研究設立後の課題設定と目標成果をより具体化します。
 準備会の期間中は、上記3分野に加えて人工知能、品質管理関連規格、ロジスティックス、ソーシャル・マーケティング(公共サービス・イノベーション)の専門家にも協力を仰ぎます。最新技術と産業化の動向について情報共有するとともに、品質管理学会規格(新製品・新サービス開発管理の指針)の活用についての理解も深めます。そして、研究会として発足後は、まず、(1) PPP/PFI制度に代表される官民連携事業の成功事例を調査するとともに、(2)官民連携事業のビジネスモデルをシステム論的に分析するためのモデリング(一般化・体系化)を行い、(3) 運輸における自動・自律化技術が社会インフラとして定着するための技術的・制度的課題を検討するためのフレームワーク(議論の概念図)を形成します。それから、(4)それら課題に対処するための品質管理全般を持続可能性(Corporate Sustainability)の観点から検討し、具体的な品質保証の体制・体系を提言したいと考えております。


私の提言
顧客価値経営のすすめ

東海大学 金子 雅明

 顧客価値経営が重要であることは周知の事実であるが、品質管理を専門にする本学会員にとりわけ強くお勧めしたい。
 ご存知の通り、“品質”とは組織が提供した製品・サービスに対する顧客の評価である。評価が高ければ品質が良く、評価が低ければ品質が悪いというように、顧客のニーズを基準にして判断される。そして“管理”の目的とは、質の良い製品・サービスを効率的、継続的に提供することであり、そのための達成手段として業務のやり方、仕組み、マネジメントシステムの構築・推進に焦点を当てる。これが、品質管理の基本アプローチである。
 一方で、顧客価値とは顧客が製品・サービスを使用・消費することによって得られる効用や便益のことである。得られる効用や便益の質と量の両面において、対価と比べて顧客にとって意味があり、十分に役立っていると感じ、結果として満足しているのであれば、それは顧客に何らかの価値、すなわち顧客価値があると認められ、製品・サービスの提供を通じた顧客価値提供が行われた、と解釈できる。そして、この顧客価値提供活動を経営の中核に据えるのが、顧客価値経営である。
 このように理解すれば、我々学会員が従来「品質」と考えていたことは、世の中で重要視されている「顧客価値」と類似していることに気づく。むしろ、品質とは製品・サービス提供を通じて顧客に提供される価値、すなわち顧客価値に対する顧客の評価であると、意図的に拡大解釈をすれば、まさに品質管理は顧客価値経営そのものとなりえる。つまり、品質管理に長年取り組まれてきた本学会員は、顧客価値経営について一歩も二歩も他よりも先んじており、これを実践する素地や基盤が十分に備わっていると思われる。筆者が本学会員に顧客価値経営をお勧めする一番の理由はここにある。
 「JIS Q 9005:2014 品質マネジメントシステム-持続的成功の指針」をご存じだろうか。2018年に発行されたJIS Q 9004と名称や思想は似ているが、これよりも4年も前に発行された日本発TQM規格であり、事業・経営の持続的な成功基盤は顧客価値提供にあると説き、顧客価値提供マネジメントシステムをいかに構築し、運用すべきかの手順を提示している。素地や基盤も既にあり、参照できる指針も揃っている。さあ、今から顧客価値経営を始めよう!

 


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