(社)日本品質管理学会 30周年に寄せて



このたび、貴学会では、新しい世紀の始まる記念すべき年に、30周年という新たな節目を迎えられ、心からお祝い申し上げます。また、創立以来、品質管理に関する学理及び技術の進歩を図ることによって、我が国の学術、産業の発展に多大な貢献を果たされた貴学会の活動に対し、ここに改めて感謝申し上げる次第です。

さて、我が国経済社会の現状を見ると、不良債権問題、少子・高齢化問題による経済活力と生活の将来への不安など、複雑な問題を抱えております。我が国がこの現状から脱出するためには、抜本的な構造改革により、数々の制約要因を取り除くことがまず何より重要と考えています。さらに、この先に広がる大海原での経済発展が順風満帆に進捗するためには、安定的かつ順調に経済活動が行われるための基盤をもしっかりと構築しておくことが鍵となると考えます。

1980年代の我が国経済の好調期を振り返ると、この基盤となるべきものの一つを見ることができます。我が国経済活力の源泉ともいうべきものづくりについて、グローバル化する経済社会にあって「Made in Japan」が高品質な製品の代名詞となり、日本製品の多くが国際的に高い評価を得る状況の下、いわゆる「日本的経営」や我が国の「生産システム」が世界中から注目を浴び、多様な分析・研究の対象となりました。最近よく耳にする「米国製造業の復権」は、この分析によって普遍化された日本の生産システムに、IT技術を組合せて、効率性をより高めた米国的な生産システムを確立・普及させたことが大きく寄与しています。現在の我が国製造業は、その一方で、極めて高い品質、換言すれば高いレベルの性能、信頼性、精度などを強みとして、引き続き国際競争力を有している分野が多く存在しています。この経緯と現状を踏まえれば、我が国のものづくり産業を代表とする質の高い製品・サービスを提供する能力をさらなる高みに引き上げ、これにIT、環境、消費者安全などに関する新たな技術を溶け込ませて、より質的なレベルが高く効率的な経営システムを作り上げていくことに、経済発展基盤の指針の一つを見い出すことができましょう。

今回のシンポジウムのテーマである「21世紀の経営とクォリティ」は、まさに将来の我が国経済の発展を考える上で不可欠なアイデアを取り上げ、そのあり方について検討をするという極めて意義が高く、また時宣を得たものと認識しております。品質の本質的な意義は、財・サービスの需要家が期待する効用を十分満足させることにありましょう。もちろん、質が高いばかりでなくコストパフォーマンスが鍵となることはまぎれもありませんが、品質にこのような概念も包含すれば、品質の高い財・サービスを提供できる経済は、需要家からの信頼と満足を勝ち取り、中長期的に安定性のある営みを持続する能力を有しているものとなります。すなわち、品質の向上が内包する構造的な、そして本質的な強みこそが、日本経済の再生とその安定的な発展に大きな役割を果たすものと確信しております。

我が国経済の現状について、これまでうまく機能してきたシステムが経済環境に合わなくなったという見方が強くなっておりますが、こと品質については、その重要性が軽視され過ぎたような面があるのではないか、すなわち、これまでの我が国産業の強みである品質重視の姿勢を再度見つめ直す必要があるのではないかと感じております。さらに、そのようなものづくりのシステムを根底から支えている重要な要素として、人材の育成、すなわち「人づくり」という視点も再考が必要ではないかと感じております。その意味で、この度、貴学会が「品質管理推進功労賞」という新たな制度を設けることによって、この「人づくり」の面にも新たな光りを当てられたことは、高く評価されることだといえましょう。

日本品質管理学会が30周年という節目の年を向かえ、日本経済の発展に欠かせない根幹的なテーマについて議論が行われる今日、新たな発展の礎が築かれんことを強く期待するとともに、貴学会の更なる発展を祈念いたしましてご挨拶とさせて頂きます。

平成13年5月25日

経済産業大臣

平沼赳夫